どっぷりスキる

2024/08/20

【前編】さとなおさん、ファンの「スキ」ってなんでしょう

なかじま

人口急減に超高齢化、超成熟市場、情報過多など、企業にとって困難な状況が増す時代において、ファンを大切にする「ファンベース」という考え方を提唱するさとなおさんこと佐藤尚之氏。
今回はさとなおさんに、ファンベースのこと、ファンの「スキ」についてお話を聞きました。

佐藤 尚之(さとなお) コミュニケーション・ディレクター / ファンベースカンパニー取締役会長

1961年東京生まれ。電通入社後、コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経てコミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し、ツナグ設立。2019年ファンベースカンパニー設立。著書に『ファンベース』、『ファンベースなひとたち』(共著)、『明日の広告』、『明日のプランニング』など。大阪芸術大学客員教授。助けあいジャパン代表。アニサキスアレルギー協会代表。花火師。

「ファン」のことちゃんと考えていますか?

さとなおさんが提唱されている「ファンベース」についておしえてください

佐藤尚之さん(以下・さとなおさん)

 まず前提として、日本はこれからもう人口は伸びないですよね、買う人が減り続けるわけですから景気もなかなか良くはなっていかない。いろいろな意味で企業にとって厳しい時代になる中で、売上の8割を支えてくれるファンを大切に、ファンをベースに考えていきましょうというのがファンベースです。

 今って、メディアもコンテンツも溢れていて、情報は届けたい人に簡単には届かなくなっている。そんな中でファンは、自分が好きなものを身近な家族や友人に熱心に伝えてくれる。そこだけは確実に伝わるルートなわけです。そうやってファンを介して企業が伝えたい情報が伝わっていく状態を作るのがファンベースの考え方です。

ファンになってもらうための方法ではないっていうことですよね

さとなおさん

 ファン化してやろうとか、人の気持ちを動かそうとか、そんなふうに人を操作できると思っていたのは昭和の話。確かにマスメディアが強くて、他に情報がそれほどなかった時代はある程度操作できましたが、そんな傲慢なマーケティングはもうないと思います。既にファンになってくれている人たちに喜んでもらって、ファンのLTV(Life Time Value)をあげましょうというのが、ファンベースのまず一歩目です。そんな簡単に新規は増えない、まずはちゃんとファンに向き合いませんかということです。

 ファンの熱量が上がれば上がるほど、LTVも増え、推奨も増え、少しずつ買ってくれる人やファンに奨められて新規顧客が増えていくということをベースにしましょうっていうのがファンベースなんです。

ファンを大切にする一歩目ってなんでしょう

さとなおさん

例えば、すごく僕のことを好いてくれる人がいて、その人を大切にしようと思ったらどうします?

 まず、その人のことを知らなくてはいけない。ちゃんと相手が僕のどこを好いてくれていて、どういう気持ちでいるのかっていうことを知るのが大事。伝えたい相手のことを知るところから始まるのがマーケティングです。

 相手のことをきちんと知らずに何となくの想像で、「ここが好かれているからそれをもっと伝えよう」なんてことをやってる限りは、一瞬買った人がいたとしても「スキ」は増えなくて、結局、離れていってしまいますね。

ファンとは中長期的に離れないひとのこと

ユーザーの声とファンの声はちがいますか?

さとなおさん

 全ユーザーの2割でありながら売り上げの8割を支えてくれているのがファンです。なのに、ユーザー全体の声を聴いてしまうと、たまたま買った8割の浮気者ユーザーの声が入っちゃうわけですね。好いてくれて買い続けて、売り上げの8割を支えてくれているファンの声だけを聞かないといけないのに、ユーザー全体を聞いちゃうと文句のある大声の人が勝ったりするわけです。だから「ユーザーの声を聴いて、ここ直さないといけない」とかなって、どんどんファンの想いと違うところにいってしまう。それは一番失敗するパターンです。そんな改善より、まずファンに好かれている部分を伸ばさなければいけません。

 ユーザー全体の意見をいっぱい聞いちゃうと大体間違います。同じように新規を取り込みたいからってまだ顧客ではない人の声をいっぱい聴いて施策を打ったりすると、今までのファンが「なんか変わっちゃったね」と不満に思って離れていくかもしれない。それが一番駄目ですよね。

ファンの「スキ」って何でしょう?

さとなおさん

「スキ」って一時的だったりブーム的だったり、一目ぼれみたいなことってありますよね。ただ、僕たちファンベースのファンの定義っていうのは「そのブランドが大切にしている価値を支持してくれている人たち」なので、単なるスキとは違うと思っています。

  スキって色々ありますよね。美味しいからスキっていう人もいれば、安いからスキっていう人も。安いからスキって人は、安さがスキなので、もっと安いものがあればそっちにいくわけですよ。つまりそのブランドのファンではない。

 ファンというのは中長期的にずっと離れない人たちのこと。背景にある考え方とか、開発の姿勢とか、どういう人がどういうことを考えてつくっているのかというようなことを、ちゃんと感じて理解をして応援してくれている人のことです。そのスキは一般のスキとはちょっと違う感じですね。

 ファンにもステージがあって、発見期、継続期、参加期、共創期って上がって行くわけです。最初に発見して「うわ!これすごいな」って思ってスキになって、その後継続して購入するけど、何か似たような商品が出ると移っちゃったりする。でも、参加期に入るともう離れなくなってくるんです。より深くスキになっていく。

ファンステージが上がっていったファンの力を実感されたことを教えてください

さとなおさん

 いっぱいあるんですけど、やっぱりファンミーティングでファンを目の当たりにしたときですね。「そんなスキなの?」ってくらいファン同士ですごい熱量で話しますね。場合によっては担当者が泣くぐらいのスキの力、ファンの力、熱量を感じます。

 意外と企業の人たちは「うちにはファンはいないんじゃないか」と、自信がないんですよ。特に開発者とか、工場で製造を担当している人とか、普段ユーザーと接触のない人は声も入ってこないから、ファンミーティングでその想いを聴くと腰を抜かすくらい驚いて、モチベーションがすごいあがる。ファンたちは、自分たちが思ってもみなかったところをスキと言ってくれたりするので、びっくりするみたいです。機能価値に対しての「スキ」はわかりやすいけど、ファンが語る情緒価値の部分には「本当にそんな感情でスキって言ってくれるんだ」と驚いています。

 ファンはすごくその商品や企業のことを思っているんですけど、企業側はそこにあんまり気づいていないんですよね。

お話はまだまだ続きます。後編は8月27日(火)に公開!

編集者なかじま

「スキ」への着火も早いが鎮火も早い… ファンにあこがれる毎日です

この記事をシェアする

関連記事

  • 「ファン」を知らないとはじまらないー企業やブランドにとってのファンとは

  • ゲストが語るさまざまな「スキ」から、その正体に迫ります!

人気の記事