どっぷりスキる

2024/08/27

【後編】さとなおさん、ファンの「スキ」ってなんでしょう

なかじま

前編では、「ファンベース」を提唱するさとなおさんこと佐藤尚之氏に、「ファンベース」とは、「ファン」とはを中心に、お話を聞きました。
後編では、これから予想されるマーケティングの未来について。プラス、さとなおさんの最近の「スキ」なものを教えていただきました。

佐藤 尚之(さとなお) コミュニケーション・ディレクター / ファンベースカンパニー取締役会長

1961年東京生まれ。電通入社後、コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経てコミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し、ツナグ設立。2019年ファンベースカンパニー設立。著書に『ファンベース』、『ファンベースなひとたち』(共著)、『明日の広告』、『明日のプランニング』など。大阪芸術大学客員教授。助けあいジャパン代表。アニサキスアレルギー協会代表。花火師。

AIを凌駕するものとは

ファンの熱量を感じる一方で、日本人は自分の「スキ」を言わない一面もありますよね?

佐藤尚之さん(以下・さとなおさん)

 いや、意外と発言安全性とか心理的安全性があるなかでは日本人も「スキ」を言うんですよ。 例えば日本人って真面目だから、ペットボトルのこのお茶がスキでも、「他社のも全部飲み比べたわけじゃないのに、これが一番いいとは言えない」と思ったりする。でも、家族や親しい人にはそんなこと考えずに言ったりするじゃないですか。そういう関係性の中では意外と強く推奨するんです。逆にSNSとか公の場では自信がなくて言わなかったりする。それをマーケターとかは、SNSでバズらせようとか、知らない人にも推奨してもらおうとか厚かましいことを考えているわけです。そんなの言うわけない。

 すごい無口ですごく自信ない人でも、仲間内では「あれ良かった」とか言う。心理的安全性があるクラスターの中では言うんです。そうするとそのクラスターからゆっくり広く伝わっていく。その場に心理的安全性があれば人は「スキ」を言えて、それに影響を受けた仲間はまた別の仲間に広げてくれるんですよ。

「スキ」が社会を変えることってありますか?

さとなおさん

 これからAIの時代になってくると、一人ひとりの耳にAIが常駐して、AIと話し合いながら商品を選べるようになると言われています。そうなると広告はもうあまり必要ではなくなりますよね。認知もいらないしバズもいらない。最高な商品も最安な商品も最適な商品も全部AIが教えてくれる。もういま主流になっているマーケティング的なアプローチは一度終わるんじゃないかと思います。

 それでもただひとつだけAIを凌駕するアプローチがあって、それは友人の言葉。

 例えばビールを選ぶとき、AIはご主人に最適な商品を教えてくれるわけです。新製品も今キャンペーンで安くなってる商品も教えてくれるし、ご主人が好きなタイプの別の商品も教えてくれる。さらに、たとえばこのメーカーは海外で温暖化防止の取り組みをしているとか、そういう背景も教えてくれる。その上で僕にとって最適解をすすめてくれるわけですよ。ただ、その横に友人がいて「いやいやビールもいいけどさ、このリキュールすごいうまかったから飲んでみて」とか言われると、ボクたちはそっちに心を動かされますよね。つまりAIの推奨を超えるわけです。

 AIが最適最高最安最良の商品をすすめてきたとしても、友人が「スキ」な商品はそのオススメを凌駕する。友人に限らず、心理的安全性の高い親とか近しく感じる人、自分の好きな人の「スキ」なものは好きになりますよね。そういう意味でこれからの世の中に「スキ」の影響力は高まるんじゃないでしょうか。

幸福は人とのつながりの中に

AIの最適解と好きなひとの「スキ」なものが揃う未来は楽しそうですね

さとなおさん

 グッド・ライフ※1っていう本でハーバードが84年に渡る幸福研究の結果を発表しているんですが、人の幸福の鍵は人との良い人間関係に尽きる、という結果なんですね。つまり「つながり」です。人とのつながりこそが幸福のキーなんです。その繋がりの中でも幸福なのは「スキ」を通じて繋がった関係だと思うんですよね。そういう意味で、ファンコミュニティみたいなものってとても大事になってくると思ってます。このガジェットが好き、このタレントさんのことが好き、韓流好きとかのスキ同士で繋がりをキープして生きていくのは幸せそのものなのではないかなぁと。

最後にさとなおさんの最近の「スキ」を教えてください。

さとなおさん

 Music Dialogue※2という室内楽の若手演奏家の育成を目的としたプロジェクトがあるんですが、その10周年コンサートに行ったんです。様々な「対話(Dialogue)」を通じて、演奏をつくり上げていくんですが、リハーサル風景を見られて、最終的に出来上がった音楽をライブで聴衆としても聞ける、みたいな取り組みです。なんかすごくスキになりました。室内楽が全く違う聞こえ方になったし、若手の中の何人かのアーティストで「推し」みたいな人ができました。ちょっと追ってみたいなぁと。。

 あと、最近は身近なスキが多いかな。近所の花屋で、毎回すごく丁寧な対応をしてくれて、「少し高くてもここで買いたいな」って。そういう身近な「スキ」が増えています。今使っている名刺入れも、そのメーカーに惚れ込んでそこに勤めている友人から話を聞いていいなと思って使っているんですけど。名刺入れを開くたびにその友人のことを思って、ちょっと温かい気持ちになる。そういう心地良さ、気持ち良さが「スキ」に繋がっています。単にファンとか推しとかじゃなくて、そこに文脈があるということが、僕の中のスキかもしれません。

 最終的には、もう自分の身の回りは全部スキなものになっていくんでしょうね。

※1:グッド・ライフ:ロバート・ウォールディンガー著, マーク・シュルツ著, 児島 修 翻訳辰巳出版
※2:Music Dialogue:https://music-dialogue.org/

編集者なかじま

「スキ」への着火も早いが鎮火も早い… ファンにあこがれる毎日です

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