
2025/06/24
【前編】三宅香帆氏が語る「好き」との向き合い方―自分だけの感情を言葉に
たにぐち
近年、従来の広告手法ではお客様に訴求しづらくなっています。その中で、「お客様の『好き』という気持ちをどう引き出し、持続してもらうか」が重要な課題となっています。今回は、『好きを言語化する技術』の著者である三宅香帆さんにインタビューを実施。言葉にすることでファンにどのような良い影響があるのか、そして企業とファンの絆をより深めるヒントについてお話を伺いました。
三宅香帆文芸評論家・京都市立芸術大学非常勤講師
1994年高知県生まれ。京都大学大学院博士前期課程修了。株式会社リクルートに入社後、2022年に独立。主に文芸評論、社会批評などの分野で幅広く活動。著作には『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)、『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー携書)など多数。
目次
三宅 香帆さん(以下・三宅さん)
以前から文章講座などを実施する中でよく寄せられる相談が、「推しについて語りたいのに語彙力がなくて、なかなか上手く語れない」というものでした。実際には、語彙力の問題というより、自分の思いをどれだけ具体的に整理できているかが重要だと感じていました。そこで、そうした相談に答える形で本を書こうと思い立ったのがきっかけです。
三宅さん
単純に上手く言えないとか、自分の想いを正確に伝えきれていないと感じる方が多いです。また、自分の発信に「いいね」がつかないなど、さまざまな理由があります。SNSで自分の好きなものやことを発信できる今、他の人の言葉を見て「自分の言葉はあまりうまくないのかもしれない」と感じてしまうこともあるのかもしれません。
三宅さん
自分の好きなものやことについて、相手に理解してもらえるとうれしいですよね。また、誰かに伝えるためだけでなく、自分の感情を言語化しておきたいという方も多いのではないでしょうか。「好き」な存在についてうまく言葉にできないもどかしさを感じているのかもしれません。
三宅さん
私は、自分の状態を整理できる点が「言語化」の一番の良いところだと思います。言語化することで、自分だけの感情を言葉として蓄えておけます。これにより、自分と向き合う時間を持つことができ、自分についての理解が深まります。
例えば、好きなアイドルがいて「ファンならライブに行かなければならない」と感じてしまうことがあります。しかし、ライブ参加には時間やお金がかかり、どこかで葛藤が生まれることも。そのとき、自分がそのアイドルのどんなところが好きなのかを言語化できれば、「私はSNSでの発信や発言が好きだ」というように自分の「好き」を明確にできます。すると、「ライブに行くこと」にそこまでこだわる必要はないと気持ちが軽くなることもあります。
つまり、自分が何を感じ、何を考えているのかを言語化し、言葉にできることで、周りに流されず自分自身の生活を作ることにつながると思います。現代の生活は、流されるとどこまでも忙しくなったり疲れてしまったりすることが多いので、そういった時に自分の気持ちを言語化できていることは大切だと思います。
三宅さん
そうですね。他者と比較することなく、自分自身の価値観を肯定できるようになると、自信を持って自分の「好き」を表現できるようになるのではないかと思います。例えば、「これくらいの本しか読んでいないのに『本が好き』と言っていいのかな」とか、「最近全然新作を観ていないのに『映画が好き』と言えるのかな」と思うことはありませんか?でも、たくさん読んでいなくても、新作を観ていなくても、自分に影響を与えてくれた作品があることは、十分に「好き」と言える理由になります。人と自分の「好き」を比較しないためにも、言語化は必要だと思います。
三宅さん
「好き」という感情は、必ずしも永遠に続くものではありません。だからこそ、その感情が芽生えた瞬間に言葉で記録し、保存しておきたいと思うのです。本の場合、昔読んだときはすごく感動したのに、読み直すとそうでもなかったりすることがあります。でも、それって自分自身を取り巻く状況や経験が変化しているので、当たり前なことですよね。いつか消えるかもしれない感情を保存しておけるのは、その当時の自分の感情と再び出会える大切なことだと思います。
―三宅さん、ありがとうございます。
後編では、「好き」と「ファン」の違いに着目し、好きを広げるために発信側(企業・ブランド)ができることをテーマにお話いただきます。どうぞお楽しみに!
編集者たにぐち
昨年度から私の中で「言語化」は大きなテーマの1つとなっています。日々、自分の語彙力のなさや知っている言葉の少なさに打ちひしがれていましたが、三宅さんのお話や『好きを言語化する技術』を読む中で、他に必要なポイントがあることを知り、少し安心しました。同じモヤモヤを抱えるみなさま、ぜひ『好きを言語化する技術』を読んでみてください!
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