どっぷりスキる

2024/10/01

【後編】野崎さん、「なんかスキ」なブランドってなんでしょう

たにぐち

前編では、お客様との関係性に注目し、ありたい信頼関係を構築するためのアプローチとして「関係性のブランディング」のお話を聞きました。後編では、たった1人の「これ欲しい」という気づきを拡張し事業をつくりあげる、逆転のマーケティング発想術「N=1」とそれを実践するスマイルズ様の企業風土についてお聞きしました。

野崎 亙株式会社スマイルズ 代表取締役社長 兼 CCO

京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。株式会社イデー、株式会社アクシスを経て、2011年スマイルズ入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、入場料のある本屋「文喫」、東京ミッドタウン八重洲「ヤエスパブリック」など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。ACC CREATIVITY AWARDS 2020デザイン部門審査員、2024年度グッドデザイン賞審査委員ユニット長。
【著書】自分が欲しいものだけ創る!ースープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング

スマイルズ流の事業のつくりかたとは

スマイルズ様では「共感」がうまれる事業やブランドをどう生み出しているのでしょう。

野崎 亙さん(以下・野崎さん)

自分が生活者だったら本当にそれを買いたいか、利用したいかを徹底的に考える、「N=1」の視点を大切にしています。マーケティングリサーチの際の母数である「N」(Number)は多いほど有効であると言われていますが、スマイルズの基本である「誰にも似ていない」を実践するうえでは、発想の基点は「N=1」であるべきと。

いわゆる市場環境情報などのマクロ情報を最初に収集することはないです。収集したとしても、基本的にその情報を前提として物事を組み立てることはしません。むしろ最後に調べるという感じです。

実際に新たなプロジェクトがスタートしたら、そのプロジェクトに関係しうる自分の原体験やその時の感情の揺れなどを収集することからスタートしています。プロジェクトに関わっていない社員からも、関係ないけどヒントになりそうっていうものも含めてどんどん「N=1」を集めます。

いろんな人の「N=1」を集めて、誰かのN=1と誰かのN=1の共通事項を見ていく感じですね。最初はそれぞれの体験と背景にある事柄とか想い、なぜ私はそうしたいのかみたいなところを収集していくことが、我々の「N=1」からつくる事業のファーストステップです。

※株式会社スマイルズ 提供画像

自らの原体験や感情の揺れ動きに気づきを持つことは、できそうでなかなかできることではないように思います。

野崎さん

 我が社は「君はどう思う?」「君の後ろ側は?」しか問わない。これが普段です。たとえば20歳の方だと20年間の人生があるわけじゃないですか。これは絶対にユニークですよね。これまでの経験とそれによって培われた自分の中の思考。どういうふうに物事を捉えて、自分で自分を振り返ることができるか、考えられるかっていうところを大切にしています。

 また、一般的な成功モデルを知らなくていいわけではありません。むしろ知ることはすごく重要。我々は「誰にも似ていない」を実践する企業ですから、一般的な成功モデルを知らなければ、気がつくと同じことをやっていたみたいなことになりうる。さらに、その一般的な正解を「なぜそれが正解と言われるんだっけ?」って、ちゃんと考えて理解しておくことはすごく大事です。

 結局いろいろ積み重なってでき上がっているってことは、ほぼ正解なわけじゃないですか。けど、そこを疑いにいく。全部を変える必要はなくて、少し視点を変えるだけで突然全く別のものになっていくということです。

うちは、結局ネクタイ屋だし、結局リサイクルだし、普通のことなんですよ。その中に潜んでいる、「本当はそうじゃなくてもいいんじゃない?」っていう点を、生活者感覚の中で絶えず自分はどう思うかということを問い続けることが大切で、僕はずっと考え続けていますね。

「だいたい何でもできる。なんでもやりたい」のつながる先に

生活者感覚の中で自分自身に問いを立て、考え続ける。そんな組織の人材育成において、野崎さんが重視していることはなんでしょう?

野崎さん

 「やるべきことをやる人」「したいことをやる人」「得意なことを発揮する人」のなかで、僕(野崎)はどれを一番重視すると思いますか? こういう聞き方をすると、ほとんどの人が「したいことをやる人」と答えるんですよ。でも、僕は「得意なことを発揮する人」に興味をもちがちです。

 誰かにとっての得意なことって、実はほとんど変わりません。得意なことの本質は、いわゆる存在意義そのものだと思っています。だからこそ、本人も粘って頑張ることができる。そして人は相手の得意に信頼を寄せるわけです。チームで仕事をするときに、「何にも得意じゃないけど、僕はこれやりたいです」って言ってもみんなついてきてくれないですよね。基本は、その人の「得意」を信頼しているのだと思います。

 得意の前提は「勝手にそうなってしまう・そうしてしまうこと」。モチベーションに関係なくやってしまう、自律的に動いてしまうもの。自律性ってモチベーションに関係なく一定のクオリティやパフォーマンスを出し続ける、いわゆる律する力だと思うんですけど、僕はその自律性を重視しています。

「なんで彼は頼まれていないのにそこまでできちゃうんだろう」といった様子を見て、1人1人の得意を発見していきますね。あと、自分でも気づかなかった得意を外の人が言ってあげると、それがある種自信になって、次はそこを意識しだすようになる。もっと得意を伸ばしやすくなります。

ただ、得意なことだけをやってもらうことはないですね。それだけしかやっていなかったら可能性が狭まってしまうので。とにかく、スマイルズは「やったことがなかったらやる」が基本です。新しい挑戦やチャレンジっていうのは、結局それは会社の機会になるし、その人にとっての機会を生み出すことになると思っています。

うちは決まり事が少ないんですけど、唯一あるのは「新しいことは絶対やる」。変わった会社です。

最後に、野崎さんの「スキ」を教えてください。

野崎さん

 基本的に、モノが好きなんですよ。学生時代に椅子13脚と暮らしていましたからね。8畳ぐらいのリビングの壁際周囲にブワーっと椅子とソファーを並べていました。どれも座らず、真ん中で寝るっていうね。

あと、モノを買うプロセスがスキですね。例えばキャンプをしようと思ったときに、最初に雑誌を買ってきて、3カ月間その雑誌をずっと熟読し続けてました。ひたすら隅から隅まで全てを読んで、自分の嗜好性を測る。買ったことのないジャンルで何も知識がない中で、一体僕の物差しはどこにあるのかわからないのでそれを探す。有名なブランドに僕はこのまま傾倒してしまうのか、はたまたニッチなプロダクトに手を伸ばすのかみたいなことを考えて、最初に買ったのはちっちゃい1400円のランタンでしたね。

 あと、何か新しいものを買うといつもパートナーに怒られるので、「いいイイワケ」を探す。そんなときに、自分の本音とは別の建前のようなものが出てくるんですが、これもまた発見なんです。「建前がないと人は本音を叶えることができない。誰かに行動を起こしてもらうためには、本音を叶えるだけではなく、いいイイワケ(建前)こそが大切だ!」みたいな。

そんな自分の行動をいろいろ分析しています。日々の生活における自分自身の行動の中に、生活者としてどれだけの情報量が潜んでいるかを常に実感しています。

ー野崎さん、ありがとうございました。

編集者たにぐち

今回のインタビューで野崎さんだけではなく、スマイルズ様自体がより大好きになった新人プランナー。

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