どっぷりスキる

2024/12/03

【後編】中からブランドを育てるー意思を統一させること・感覚を磨き合わせることー

たにぐち

 海外企業の日本上陸支援や異業種での事業展開支援を通して、企業ブランディングやブランドコミュニケーション戦略を手掛けてきたインフロレッセンス株式会社 CEO 井川沙紀さん。前編では、海外ブランドの日本展開において、大切にされていることを中心に、ファンとの関係性や、ブランドに必要なことをお話いただきました。後編では、ブランドを中から育てていくために必要なことをうかがいます。

井川沙紀インフロレッセンス株式会社(https://www.inflorescence.co.jp/) CEO

これまで様々な企業で新規事業開発や、ブランドビジネスのマーケット展開に従事し、ブランディング・広報・PR領域を担当。その後、米ブルーボトルコーヒーの日本ローンチを担当し、日本代表、アジア代表を経て、米・本社の経営メンバー(Chief Brand Officer) としてグローバル全体のブランドの統括責任者として勤務。
現在は起業し、日本及び米国企業のブランディング・コミュニケーション戦略のコンサルティングを行いながら、大学の特任教授(客員)や社外取締役として活動している。


ブランドを中から育てていくために

ブランディングにおいては、中の人たちの意思統一、インナーブランディングも同時に進められると思いますが、ここでの大切なことはなんでしょう

井川 沙紀さん(以下・井川さん)

 言語化することがすごく大事だと思っています。例えば「おいしい」や「かっこいい」といった人それぞれの感覚をどういうふうに理解させるか、全員で共通認識を持つかが重要です。例えば、ブルーボトルコーヒーでは、私たちのコーヒーのおいしさには、3つの要素がありますという話をしていています。

 1つは、素材や作り方といった実際にコーヒーが持つおいしさ。ブルーボトルコーヒーが考えるレシピで淹れることや、鮮度が高く質の良いコーヒーを使っていることで担保されるおいしさのことを指しています。2つめはホスピタリティ。スタッフがどうお客様に関わるかがおいしさに影響することは大きく、大事な要素だよねと伝えています。そして、3つめは空間、建物の中でどう召し上がっていただくか。清潔感はもちろんですけど、やっぱり私としてはコーヒーが引き立つ空間作り、コーヒーを主役にしたデザインやバランスはとても重要だと思っています。この3つの要素が全て合わさることで、私たちが考えるおいしさに繋がるんだよと伝えると、「なるほど」となってくれますね。

 さらに、ブルーボトルコーヒーでは、パーソナライズドホスピタリティという言葉も大事にしています。お客様を見て一対一の接客をしましょうということを指導してきました。マニュアルがないと、みんな「どうしたらいいんだよ」となりがちで、「個性に合わせてカスタムしたホスピタリティってどういうこと?」といつも話し合っていましたね。その日の天気によってお声がけする第一声が変わるように、みんながもっと自発的に話せるようになってくると自社のファンも増える。会社としてはそれを実践できるようなツール=武器をたくさん持たせてあげられるように意識していました。

感覚を言語化するには、どういうことが必要だと思われますか?

井川さん

 一緒に体験することが一番重要ですね。ブルーボトルコーヒーでブランドチームを率いていた時は、新しいメンバーが入ってくるとみんなで美術館に行ったり、みんなでお茶屋さんに行ったり、視察を兼ねて旅行へいったこともありましたね。そういう体験の共有があると、「あの時見たあの感じだよね」とか、「このお店のこの感じがいいよね」など、どんどん言語化する角度が高まっていく気がします。良いも悪いもちゃんと共有できている状態を作るには一緒に体験することが、時間はかかるんですけど、実は早いかなと思っています。

ブランドをつくるなかで、中の「人」の存在はとても大きいですよね。井川さんご自身、人事や人財育成にも注力されてきたのでしょうか

井川さん

 これまでの経歴では、1社目は人材系の企業に、2社目も人事をやってくれということでの入社でした。そこでは入社のタイミングで新設したPR部署に未経験で配属となったので、当初は採用や社内セミナーなどとPRの両方に携わっていました。ブルーボトルコーヒーでも入社当初は広報と人事を任されていたので、結果的に人事関係のお仕事を担当することが多かったですね。

 これまで携わってきた事業領域の多くは「食」関連の店舗ビジネスでしたので「人」の採用や指導をすごく重要視してきました。数多く採用面接もしましたし、PRの仕事としても、社長の考えを社内にどう伝えるか、といった社内広報的な役割も担当してきました。せっかく広報として社長の言葉を聞く機会が多いので、伝わりきらないことや溝が埋まりきらないギャップをどのようにつなげていくか、と考えながら発信することもとてもやりがいがありました。

井川さんにとって「スキ」とは

井川さんにとって「スキ」という感覚をどうとらえていますか

井川さん

 そうですね。「スキ」って興味を持てるかどうかなのかなと思っています。人って潜在的には7割くらいのことが好きじゃないですかね。私の場合は、嫌いはすごくクリアにパチッとわかっていて、それ以外は興味があって好きになれるポテンシャルがあるものたち、っていうイメージです。嫌い以外の領域には「普通」と「好き」、「大好き」とグラデーションがあって、誰かから聞いたり、何かを学んだり、いろいろなインプットがあるなかで、普通だったものが「めっちゃ好きかも」みたいになることがよくあると思います。ブランドしかりプロダクトしかり、興味を持ってちょっと深掘って、またさらに興味が増して、気がついたら結構好きになっちゃうという感じでしょうか。

最後の質問です。井川さんの「スキ」なものをおしえてください

井川さん

 ずっと好きなものは「旅行」ですかね。海外に行くとリフレッシュになるし、日本にはない刺激を受けることができます。「そんな短い時間のために飛行機乗るの?」て言われることも多いんですけど、短い日程でも海外に旅行します。全然苦にならなくて、気持ちがリセットされるのと同時に、新しい発見にワクワクして帰国します(笑)。

井川さん、ありがとうございました。

編集者たにぐち

”言語化”が私の最大の課題です。自分から出てきた言葉がなんだかしっくりこないことが多いです。むずかしいですよね・・・。 

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