どっぷりスキる

2024/09/24

【前編】野崎さん、「なんかスキ」なブランドってなんでしょう

たにぐち

「世の中の体温をあげる」をコンセプトに、スープ専門店「Soup Stock Tokyo」、ネクタイブランド「giraffe」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」などを生み出してきた株式会社スマイルズ。現在は、自らの実業知を生かしながら、事業開発からデザイン・PR・空間・WEB構築に至るすべての機能を持つ、価値のコンサルティング・プロデュースファームとして事業を展開しています。今回は、代表取締役社長兼CCOを務める野崎亙さんにスマイルズ流のマーケティング・ブランディングについてお聞きしました。

野崎 亙株式会社スマイルズ(https://www.smiles.co.jp/) 代表取締役社長 兼 CCO

京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。株式会社イデー、株式会社アクシスを経て、2011年スマイルズ入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、入場料のある本屋「文喫」、東京ミッドタウン八重洲「ヤエスパブリック」など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。ACC CREATIVITY AWARDS 2020デザイン部門審査員、2024年度グッドデザイン賞審査委員ユニット長。
【著書】自分が欲しいものだけ創る!ースープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング

今、企業やブランドに必要なこととは

「一つひとつの事業を借り物ではなく、自ら生み出しブランドとして育てていく」を実践されているスマイルズ様が大切にされていることを教えてください。

野崎 亙さん(以下・野崎さん)

もうまさに「共感」ということです。

でもこの言葉、当然ですけどすごく曖昧で、意味が広いですよね。まず僕らは、共感してもらおう!って思ってやっているわけではないです。

歯の浮くような言葉や、きれいな言葉だけで伝えられたとき、「好きになってもらおう」という意図が見えませんか。そのようないわゆるPRやプロモーション的な言葉だけでは共感には至らないと感じていて、だからこそ、なるべく自分たちの言葉で素直に伝えるということを大前提にしています。

当然そのまま伝えたからといって伝わるわけではないけども、ブランドってどうしても言葉を飾るわけですよ。逆に、今みんなが飾っているからこそ、飾らない素直に発っする言葉は届きやすいと思っています。

一番大事なのは素直であるということです。自分たちの中の想いと外への想いを限りなく一致させる。違和感をとにかくなくしたコミュニケーションであろうというのは、活動も含めて大切にしていますね。

野崎さんが思うブランドの本質とはなんでしょうか?

野崎さん

 これまでのブランドはブランドプロミスを掲げて、時代が変わったとしても変わらない、揺るぎないものみたいな感じだったと思うんです。たとえば川に打ち込まれた1本の杭みたいなイメージっていうのかな。

けど、これからのブランドは、川の中で流れている葉っぱみたいな感じに近いのかなと思っています。岸にいるブランドと直接関係しない人たちからすると「このブランド、すごく異動(変容)しているな」と思うけど、ブランドと関係があって同じように川の中で流れている人からすると、相対的な位置は変わってない。客観的には変わっているのに直接のお客様との関係性は変わってない。

もうちょっとわかりやすく言うと、「私が何者であるか」って示すのがこれまでのブランドだとすると、「あなたは私をどう思う?」っていうのがこれからのブランドだと僕は捉えています。 「我思う、ゆえに我あり」よりも、どちらかというと、「他が思う、ゆえに我あり」っていう感じかな。人によって見え方って変わるじゃないですか。だから、何者かっていうこと以上に、どう思われているかってことですよね。お客様とどういう関係を結んでいるかということの方が非常に重要になってくると思います。

キーポイントは、”ステークホルダーとどうありたいか”

お客様との関係性に注目したスマイルズ様の「関係性のブランディング」という考え方につながっていくのですね。

野崎さん

 関係性のブランディングは、企業やブランドを擬人化して、そのステークホルダーとの信頼構造をどうつくるかを考えるものです。今、あらゆる市場がコモディティ化していますよね。そのときに、この関係性のブランディングが非常に重要になってくると思います。

商品やサービスはほぼ変わらない。クオリティもほぼイコールの中で勝つためには、合理的あるいは論理的な価値だけではない、別の価値が必要で、情緒性っていうのは1つポイントになってくると思います。

実際僕自身が相当他人を意識して生きてきたんですよ。自分自身と会社が限りなく一致していると考えた時、スマイルズが誰かにとってどう思われるかを一番意識しているんです。そんななかで、僕たちは共感的関係を目指して事業を展開してきました。

※株式会社スマイルズ 提供画像

共感的関係においての「スキ」とはどのように捉えるべきでしょうか?

野崎さん

 「スキ」という言葉は、非言語領域がすごく重要だなと思っています。こうだからスキですと単純に言葉で表せるだけじゃないと思っているんです。

何か(誰か)をスキだと感じた時、私だけがスキっていう感覚あるいは私だけのスキポイントみたいなものがあると考えています。「私だけのスキなところを見つけちゃった」みたいなね。相手やブランドに対して、「その感覚わかるよ。私はわかってるよ」みたいな自分と一致している感覚。小さなティップスが重なっていくイメージです。

 だから、コミュニケーションで共感的関係を作るうえで一番重要なことは、1回で100人を共感させることじゃなくて、100回打つこと。1回につき1人だけを捉えればいいんです。100回打ったら100人。その際、1回につき1人に深く差し込むことが絶対大事。だから、素直じゃないといけません。なるべく本音で語るからこそ、深く刺さるんです。

 全員に等しく響かせるとなると、やっぱり凡庸な言葉になりやすくなっちゃう。あるいはマーケティングワードとかマジックワードっぽくなりがちです。

100回手間がかかるかもしれないけど、100回でも200回でも続ける。1人ずつちゃんと手を繋ぎあえるようにしていくと、気が付けばすごい重層的なコミュニケーションが作り上げられています。

お話はまだまだ続きます。後編はコチラ

2024年8月23日 ANDCOCO特別講演会で登壇いただいた野崎さん

編集者たにぐち

野崎さんのお話をいつまでも聞き続けたいと思うほど、インタビューのお話を夢中になって聞いた新人プランナー。

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